あえて嫌いな人と付き合ってみた。
そう思って読み始めたのが、太宰(治)クンの小説です。
太宰治って、中学生か高校生くらいのときに背伸びして、「人間失格」と「斜陽」を読んでみたことがあるのです。(そのときに読んだきっかけは、友達になりたいと思った子が太宰治が好きと言っていたこと。だから「背伸び」という表現を使ってみたのですが)
でも、「人間失格」がとにかく気持ち悪い、読まなきゃよかった、という作品だった。「斜陽」の方は比較的面白く読んだ気がするけど・・・。
そんなわけでワタシは彼には良い印象を持っていなかったのですが。
そんな太宰治、今年が没後50年なので、いろいろなイベントが企画されているらしいのですね。
それに今、ワタシの中で一般教養を身につけたい!といい気持ちが高まりつつあったこともあり、いわゆる文学作品も読んでみようかな、と思っていたところ。
で、まあ、いいきっかけかな、と思って読み始めたのでした。
嫌いな人につきあってみるという経験もたまにはしてみよっかな、等と思いつつ。
読んでみたのは、いずれも新潮文庫で以下の9冊。(※は一部未読)
文豪ナビ(←これは太宰治を紹介する本。太宰治著じゃありません)
人間失格
晩年
二十世紀旗手
走れメロス
お伽草紙※
新・ハムレット
ヴィヨンの妻
斜陽
4ヶ月くらいかけて読んだかな。
![]() | 文豪ナビ 太宰治 (新潮文庫) (2004/11) 新潮文庫 商品詳細を見る |
そうすれば少しは冷静に太宰クンと会話ができるかもしれないと思いました。それで、生い立ち(青森の地主の家で六男として生まれ育ったこと、上京して社会運動に参加したこと、自殺未遂・心中未遂を何度か試みていること、遺書のつもりで処女作を書いたこと、周囲の人たちに精神病院に入れられて人間不信っぽくなったこと、その後見合い結婚をして精力的に作品を発表する時期がくること、「斜陽」「人間失格」執筆後心中で死んだこと)をお勉強。
印象に残ったのは、重松清さんのコメント。太宰治に手招きされているような気がして、小説を書くようになった、みたいな一文。そんなに人に強い影響を与える人なのか、と思いました。
あと、太宰治は、好きな人と嫌いな人がまっぷたつに分かれる、と言われていることも知りました。私自身は、嫌い派なんだけど・・・。
で、その後、まず最初に読んだのが、あの「人間失格」。
![]() | 人間失格 (新潮文庫 (た-2-5)) (1952/10) 太宰 治 商品詳細を見る |
思春期に読んで、「合わない!」と痛感したあの一冊を読み直すことにしました。
かなり身を硬くして読んだ気がします^^;。途中から少し緊張もほぐれましたが。
これを読んだ段階では、太宰クンは「女たらし」のイメージが強くて、読みながら、いわゆる女たらしはこんな心情で生きているのかしらん等と邪推しながら読みました。
やっぱり苦手。関わりあいたくないし、気持ちが悪いというか、タイプじゃないというか。
でも、若者には支持を受けている作品(自分のことのようだという感想を持つ若者も多いらしいです)ということなので、世の中の何割かはこういう人なんでしょうかね。
続いて、「晩年」を読んでみました。
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この作品は、太宰クンの処女作。遺書のつもりで書いたというものだそう。例えば、「思い出」という作品は、自分の生い立ちをモチーフにした作品です。
収録されている作品の中では特に「猿ヶ島」が面白かったです。
読みながら思ったことは、小説ってデタラメなのではないかといこと。言葉のトリックを重ねて、読者に何らかの気分を覚醒させようとするものなのかも。ワタシが普段ビジネス書・自己啓発書ばかり読んでいることもあり、久々に読んだ小説は、いったい何がいいたいのかとイライラしながら読みました。
この作品集、才能のきらめきのようなものを感じつつも、ワタシはこの人が生理的にキライだということも再認識した気がします。
ただ、ひねくれた態度をとっているからこそ、たまにピュアな表情を見せられるとドキッとする、ということはありました。
まあ、今年を逃すと、太宰クンとおつきあいしてみる機会は二度とないと思うので、もう少し、つきあってみようかな。
その次に読んだのは、「二十世紀旗手」。
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前期の後半の作品(太宰治の作品は制作時期より前期・中期・後期に分けることが多いようです)。だいたい年代順に軌跡をたどってみようと思ったのです。
この本を手に取ったのは、「HUMAN LOST」という作品をチェックしたかったから。あの「人間失格」のオリジナルモチーフと言われる作品です。
はなはだしく自意識過剰な人だなー、と思いました。「ナイフを持つ前にダザイを読め(「文豪ナビ」のキャッチコピー)」というのもわかる気がしました。この作品に自己投影できれば、起こさずにすんだ事件というのはあったかもしれない。
この作品のあと、「走れメロス」等の読みやすく傑作の多い中期の作品を発表していくわけですが、よく文壇がこの人を見捨てなかったなー、と思ったりしました。
そして、「走れメロス」。
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「走れメロス」は既読の方が多いと思うのですが、新潮文庫版には他にも作品が収められており、全部で6篇です。
全体に、文体に勢いがあって読みやすかったです。
特に一気に読んでしまったのが「駆け込み訴え」。おもしろく読めました。
表題作「走れメロス」は、教科書に載ってたとかそんな読み方で昔読んだように思いますが、筆者の年代順に読んで、これを読むと当時と違った感想を持った気がします。昔読んだときは、『正義感のある主人公が友情のために正しいことを必死でやる』、という話だと理解していましたが、改めて読んでみると、『正義感の強い若く愚かな主人公が自分のために犠牲になろうとしている友人を助けるためにひたすら走り続ける』話なんだなーと思いました。『若く愚かな』と『ひたすら走り続ける』というところがポイントで、青春の一部を切り取ったような作品だと思ったのでした。そういう意味では、それほど教科書的でもない話なのかも。
それから女子高生の一人称で書かれた「女生徒」もこの本に収められています。この話は女性であるワタシから見ても、その思春期の女の子の感覚として、ああそういう時代もあったかも、と思わせる作品でした。
この人の自意識過剰はどうかと、ずっと思っていましたが、適当なシチュエーションにはまるとこんなに面白くなるんだな、と思いました。
「お伽草紙」。
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誰かが太宰治の傑作は「お伽草紙」と評していたり、太宰の批判をしていた三島由紀夫に「お伽草紙」を読んでもそれがいえるかと反論したとの逸話があったり、というような話を聞いて、一度目を通しておきたいと思いました。
で、私自身も、「お伽草紙」は傑作だと思いました。戦時中に防空壕で書かれた話のようですが、「舌切り雀」「かちかち山」「浦島太郎」「こぶとりじいさん」といった誰でも知っている昔話を自由な解釈で描いています。どれも示唆に満ちていて面白い。太宰治の短編は最後の一文に示唆(毒?)がこめられていることが多いと思うのですが、「性格の悲喜劇といふものです。人間生活の底には、いつも、この問題が流れてゐます。」の一文は、私の中ではもっとも考えさせられた一文でした。
結局、この中の「新釈諸国噺」等は井原西鶴の原作に知識がないからという理由で読まなかったりします^^;
「新・ハムレット」
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この春に、シェークスピアのハムレット(新訳 ハムレット (角川文庫))を読んでいるんです、ワタシ。それがおもしろかったこともあり、太宰治がこの作品をどう解釈するのか、興味があいました。
おもしろかったですよ。「ハムレット」という題材は、太宰クンに合っていると思う。ポローニヤスが原作同様滑稽な役どころではあるけれどもちょっぴり王に向かって思いをぶつけるところがあったり、オフィーリアが王妃を慕っている感じ、実際のハムレットより随分早いところで切り上げられている等、原作と異なるところは多々あります。でも、ハムレットの苦悩はもともと太宰クンの苦悩に共通するものがあるような気がするので、本人はのびのびと書かれたんじゃないでしょうか。読んでいてそんな気がしました。
「ヴィヨンの妻」
![]() | ヴィヨンの妻 (新潮文庫) (1950/12) 太宰 治 商品詳細を見る |
これは後期に属するといわれる作品集。
家庭生活に収まれないだらしない男性を多く描いているという気がします。
この中の作品の「桜桃」の中の有名なセリフ『子どもより親が大事』というのがありますが、通して読んでみると・・・それって甘えでしょ!って感じです。で、この人自体も、自分で「これって甘えてると思われるよなー」ってわかってて書いてるように思うのですが。後世に伝えられたときに、このセリフだけ切り取られて、『子どもより親が大事』と太宰治も言ってるよ、と使用されると、さも常識的な見方のひとつみたいに見えるので、そこが恐ろしいところだと思います。
で、家庭生活に収まりきれない太宰クンを見て、やっぱり甘えてるんじゃん!とか、真面目に生活しなさい!とか、叱りたくなってしまうワタシ。彼は永遠の青年(青二才?失礼^^;)だったんだなー、と何となく思う。結局、大人になれないまま、というか、大人になることを拒否したまま、死を選んだ人だったのではないかという気がするのです。
表題作「ヴィヨンの妻」はおもしろかったですよ。
「斜陽」
![]() | 斜陽 (新潮文庫) (1950/11) 太宰 治 商品詳細を見る |
太宰クンの代表作として挙げられることの多い「斜陽」。ワタシにとっては、約二十年ぶり二度目の「斜陽」です。
貴族の没落というテーマが現代に通じるかどうかはともかく、太宰文学の集大成であるという感想は持ちました。女性の一人称で話が展開されるところ、小説家が登場するところ(太宰クンの職業。自分自身の職業を皮肉って登場?)、身分をいつわって生まれたという認識の主人公の弟(たぶん、こちらが太宰クンの心の代理人)。
うまい舞台(愛人の作った小説か何かが下敷きになっていると聞いたのですけど)を得て、書きたいテーマを、比較的多くの人が受け入れやすい形で、書き遂げることができた、という気がする。
この作品を書いた後、「人間失格」を書いて心中してしまうことになる太宰クンですが、それがわかる気がしました。
・・・ということで、他にも興味深い小説を書かれているだろうし、研究しようとするとさまざまな文献にあたれそうな太宰クンですが、8冊読んだので、おおむね印象はつかめた、というところで、とりあえずのおつきあいを終えることにしました。
ここまで読んだところの結論としては、自意識過剰で才能あふれる永遠の青年、というところかな。あまりに子どもなので(第一、生活力がなさそう)ワタシのタイプじゃないのですが、才能のきらめきがあるし、面白いこと(たまにドキッとさせられる)をいうので、たまにはつきあってあげてもいいかな、みたいな。そんなところです。










